wanwanhogo
保護活動家 interview
言葉を持たない犬のために私たち一人一人ができること
wanwanhogo
1996年より個人で捨て猫の保護活動を始める。
2016年よりwanwanhogoとして盲目、環軸亜脱臼、心臓病などの色々な問題を抱えて引き取り手の見つからない命、飼い主に放棄などの理由で捨てられていく命の保護を開始。
2019年10 月、一般社団法人アニマルライフブリッジス設立。
犬猫保護活動をインスタグラム、アメブロ等で発信中。
インスタグラム : https://www.instagram.com/wanwanhogo/
ブログ : https://ameblo.jp/wanwanhogo
えり(以下え):「wanwanhogo」にはどんな子たちがいるんですか?
西(以下に):飼い主さんやブリーダーさんから手放されてしまった子を保護しています。ここにいるのは、みんな命があと何日かわからない子、病気や障害が重く新しい飼い主に譲渡ができなかった子たちです。
え:飼い主さんからの放棄というのは飼い主さんが直接連れてくるんですか?
に:大体の子たちが動物病院からやってきます。先生から「うちにいても可哀想だから面倒見てくれませんか?」と相談をされることもあれば、「癌の末期で育てられないので引き取っていただけませんか?」と直接飼い主さんから言われることもあります。そういう子は毛が抜け落ちたりひどい状態の子が多くて「これ以上治療費をかけられない」「わんわん鳴いてどうしようもないから引き取ってほしい」という理由が多いです。ブリーダーさんのところから来た子よりも飼い主さんのところから来た子の方が心の傷が大きいです。暴力を振るわれてトラウマがあったり、人への恐怖心から噛みついてきたりとかして。ブリーダーさんから引き取った子はそこまでの子はあまりいなくて、実は飼い主さんによる放棄の方が問題はたくさんあると感じています。
え:動物病院からだと、病気で入院している子を飼い主さんがそのまま置いていってしまうこともあるのですか?
に:そうですね、医療費が払えず置いていってしまう方もいますね。あとは病院の前に置いていっちゃったりとか。
生体販売の現状って?
え:私もまだまだ勉強中なのですが、わんちゃんの保護の現場で実際に起きていることをもっと教えていただけたら嬉しいです。
に:ブリーダーさんに対して悪いイメージを持たれている方が多い印象なのですが、多分それは繁殖屋さんのことで、ブリーダーさんと繁殖屋さんは全く別のものなんです。わんちゃんのお産は6才までと法律で決まっているので、繁殖引退犬は5才から6才の子が多いのですが、動物愛護法が改正されてから、ブリーダー1人につき繁殖犬が15匹、販売犬20匹までと決まりました。なので6才を過ぎてお産ができなくなった子たちを自分のところに置けなくなったんです。ブリーダーさんは国への申告でペットとしてわんちゃんを育てているわけではないのでケージの中に必ず入れなければいけないのですが、もう出産や繁殖ができなくなった子たちを狭いケージの中にいつまでも入れておくわけにもいかないので、保護団体さんに引き取ってもらい新しい家族を見つけてもらったりしています。
え:元気な繁殖引退犬の子たちはそのまま新しい飼い主さんに譲渡しているのですか?
に:そうですね。何か病気を持っていた時にここにいる子たちにうつってしまわないように、引き取ったらすぐに動物病院に連れて行きます。そこで避妊去勢手術もしてもらいます。
わんちゃんは嘘をつけない
え:ブリーダーさんと繁殖屋さんが全く別物ということですが、具体的にどう違うのでしょうか?
に:ブリーダーさんは血統書のついた純血種のわんちゃんたちをブリーディングをします。たまにミックスもやってる方もいますが、チャンピオン犬だったり、そういう子が多いです。それに引き替え繁殖屋さんというのは、繁殖引退犬を拾ってきてどんどん繁殖させてしまう。そうやってたくさん繁殖させて生体販売をすることでお金を稼いでいました。今は徐々にシステムも変わってきていて、繁殖屋さんが繁殖させたわんちゃんたちを売るペットショップが少なくなってきています。ペットショップには流通の過程でオークションがあるのですが、わんちゃんには血統書をつけて、ワクチンを打って健康診断を受けさせて、遺伝子検査をしなければオークションには出せないようになりました。違法に繁殖させられた繁殖屋さんのわんちゃんはそこで買ってもらえなくなったため、繁殖屋さんも年々少なくなっています。
え:インターネットなどで調べてみると、繁殖屋さんについての記事はたくさん出てきましたが、飼い主さんの放棄についての記事は少ない印象でした。
に:それは個人の話だったりするので、病院も誰から預かったのかは言えないし私も聞けないけど、この子たちは嘘をつけないから、すごい苦労をしてきたんだなっていうのはわんちゃんの状態を見たら大体わかります。
え:今は「wanwanhogo」には何匹くらいいるのですか?
に:20匹くらいかな。うちだと多頭になっちゃうので、元気な子は預かりボランティアさんに預かってもらっています。特に繁殖引退犬の子達はお散歩も知らないし、ご飯も雑に入れられるだけだったし、トイレもわからない。だから、たくさんのわんちゃんの中にいるよりも預かりさんのところでちゃんと見てもらう方がいいし、預かりさんも病気の子はちょっと怖いけど元気な子ならと繁殖引退犬の子を預かってくれる方が多いです。
え:その子たちに合った場所で次の飼い主さんを待っているんですね。以前、病気や障害でペットショップの流通から弾かれてしまったわんちゃんが「wanwanhogo」にもいるとブログで拝見したのですが、西さんはペットショップについてどのように感じていますか?
に:一番難しい問題で、一番デリケートです。世の中から見ると「ペットショップをなくした方がいい」と思うんです。だけど、ブリーダーさんにもペットショップに渡している理由があって。「死んでしまったから新しい子に変えてくれませんか」って簡単に言ってくる人がいるんです。だからブリーダーさんは個人に売るのが怖くてペットショップに引き渡すんです。「ペットショップに預けたら保険もかけてくれるし必要なこと全部やってもらえるからこの子たちも幸せだ」と考えるブリーダーさんも少なくないです。だからそういうことを聞くと、うーんって思ったりして…
何かを責めるのではなく、みんなの意識が変わっていかないといけない
ペットショップとかブリーダーさんって目につきやすいから叩かれがちだけど、正直にいうと「飼主さん一人一人にちゃんと勉強してほしい」という思いが強いです。「わんちゃんを譲渡してほしい」というご相談を受けたら、私たちはまずお家に行くのですが、玄関の冷たいところにケージが置いてあって「ここで飼います」と言われても「すみません、譲渡はできません」ってなります。この活動をしていて思うのは、わんちゃんの正しい飼い方を知らない人が多いということ。可愛いからといってベタベタに甘やかしていいという訳でもなくて、適切な飼い方があります。つい先日も、「ケージに入れっぱなしで爪も巻いちゃうくらい伸びていて、一歩も外に出してもらえないわんちゃんがいる。ご飯もタイマーで出てくる物で、おそらく3日~4日もお留守番させられているのですがどうしたらいいですか?」という相談を受けました。そういった場合まずは管理会社に連絡して行政に動いてもらわないといけなくて、わんちゃんには所有者がいるので私たちは勝手に動けないんです。助けることができないんです。ブリーダーさんやペットショップ、何かを責めるのではなくて、まずはみんなの意識が変わっていけばいいなと思っています。
え:一人一人の命への考え方が変わらないと、根本的な解決には繋がらないんですね。
に:実は今*アニマルシェルターを作りたいと思っています。ほとんどのシェルターは基本的に予約が必要であまり中が見れないことも多い。だから余計いつでも誰でも見られるペットショップに人が流れやすくなっていると思うんです。今は個人で活動しているので自宅や預かりボランティアさんのお家でわんちゃんたちを保護していますが、いつ誰が来てもわんちゃんと触れ合えるオープンなシェルターを作りたいなと思っています。生体販売やペットショップをなくすにしても、まず先に受け入る箱がないと今いるわんちゃんたちの行き場がなくなってしまう。私がまず一つ作って、それが広がって他のシェルターも同じようになっていったら、何か特別なことをしなくてもきっと自然にペットショップが消えていくと思うんです。まずは受け皿を作ることが大事だと思います。
え:本当にいろんなことが絡み合っているんですね。何かを変えるというより、先ほど西さんが言っていたように「人」が変わらないと状況はよくならないんだなと実感します。「わんちゃんのために何かしたい」と思った人はまず何をするのが一番だと思いますか?
に:やっぱり、それぞれ自分の周りにいるわんちゃんをすごく大事にしてもらいたいです。あとはみなさんがもっと賢くなって人や団体をうまく見極めてほしいと思います。個人にできることとして寄付がありますが、動物愛護団体にもいろんな団体があります。しっかり勉強して本当に信頼できるところを選ぶようにしてほしいですね。
保護犬のイメージを変えたい!
え:「wanwanhogo」のInstagramには幸せそうなわんちゃんの写真が多くて印象的でした。悲しいエピソードや写真を載せている保護団体さんがある中でそういった前向きな発信をしている理由はありますか?
に:私が保護活動を始めた当初、世間一般的な保護犬のイメージはあまり良くありませんでした。保護犬を連れていくと、動物病院やトリミングで断られることも多かったんです。その時に「保護犬のネガティブなイメージを変えよう!可愛い保護犬のイメージにしよう!」と思うようになりました。
え:保護犬という理由だけで断られてしまうんですね。
に:でも、私が保護活動を始めた時より今はいろんなことが良くなったと思います。昔は本当にひどくて、ほとんどのわんちゃんが繁殖屋さんで繁殖されたわんちゃんだったので。
え:西さんはどのくらい前から保護活動をしているのですか?
に:物心ついた時から、捨て猫や犬を拾ってはお寺で譲渡会のようなものをさせてもらっていました。活動自体は預かりボランティアから始めたのですが、会社にわんちゃんを連れて行けることもあって、次第に病気の子も預かるようになりました。病気の子はなかなか譲渡先が見つからないので、ずっと私のところにいてその流れで今の活動が始まりました。
え:保護犬を迎えるにあたってハードルが高いと感じる一つに譲渡条件があると思います。「wanwanhogo」は譲渡条件はありますか?
に:前にお手伝いしていた保護団体さんは、どんどん譲渡に出さないといけないところでした。その時に「死んでしまったので新しい子をください」と飼い主さんに言われて、理由を聞くと「わかりせん」と無責任な返答があったり、譲渡条件で揉めてしまうことがよくありました。事故が多かったり、「子供ができたのでお返しします」と言ってくる人がいたり転売する人がいたり…そういう理由で譲渡条件もどんどん厳しくなっているんだと思います。譲渡するからにはわんちゃん達に幸せになってほしいので、今は「wanwanhogo」の譲渡先は厳選しています。一人暮らしの方や、お留守番が長いお家への譲渡は難しいです。最近は知り合いの方に譲渡することが多くなっていますね。うちは譲渡できる子がそもそも少ないからそれでも大丈夫ですが他の団体では難しいかもしれないですね…。人を審査するってすごく難しいです。
え:わんちゃんたちのために、譲渡条件を定めることは重要なんですね。
に:はい。愛護センターからわんちゃんを引き出す時に、譲渡事前講習会というものを受ける決まりになっていますが、ペットショップや保護施設でもそのような講習が必須になればいいなと思っています。ブリーダーさんの法律などはどんどん厳しくなっているけれど、飼い主さんの勉強が足りていなかったら意味がありません。適切な飼い方の講習や事前に見つけることのできなかった病気が見つかった時のフォローアップ制度など、その辺の制度も整っていくといいかなと思っています。
え:西さんのお話を聞いて、インターネットの情報だけでは不十分なことがよくわかりました。本当に力になりたいと思うなら、自分の目で見て耳で聞いて、もっと勉強する必要がありますね。今回は貴重なお話をありがとうございました!
に:ありがとうございました!
*アニマルシェルター
行き場を失ってしまった動物を一時的に保護し、家庭動物としての訓練や、怪我などの治療、不妊・去勢手術、ワクチン接種などをおこない、新たな飼い主と動物との出会いをサポートする役割を持っています。
他の記事を読む